特集/新展開! ドコモ通信記録窃盗事件は学会の組織的犯罪か H15.5.15号

起訴事件以外にも被害者がいた
 ―不可解な警察の事件への対応

山田直樹(ジャーナリスト)

 昨年、創価大学職員をはじめとする学会員三人によってなされた「NTTドコモ携帯電話 通信記録不正入手」事件。彼らは電気通信事業法違反容疑で逮捕・起訴されたが、立件されたのはわずか一件のみ。東京地裁の下した判決も、罪状相当との理由があるとはいえ懲役一年〜一年六カ月(執行猶予三年)という“軽微_”なものだった。
 もしこの事件のウラに、かつて創価学会が行った「日本共産党議長・宮本顕治宅盗聴事件」に比肩しうる悪質性、かつ重大性が認められるとすればどうか。不正入手した携帯電話通話記録が一件だけでなく、数百件もの規模だとしたら――。そのことが分かっていながら、仮に一件のみしか立件しなかったとすれば、「通信記録の窃盗」という悪質な事件への捜査スタンスそのものが問われることになる。
 実は事件の被害者以外、少なくとも二人の女性が警察の事情聴取を受けている。しかも警察は、この両名に対して、それぞれの携帯電話通信記録へのアクセスがなされ、ひとりには記録が不正入手(窃盗)されていると説明していたのである。言うまでもないが、これは冒頭に述べた学会員三人による事件に敷衍して行われた事情聴取であるから、当然のごとく、犯人のひとりでNTTドコモ関連会社(ドコモ・システムズ)へ勤務していた嘉村英二・元被告が直接、関与した部分の捜査に関連してということになる。
 ところが警察(警視庁保安課および深川署)はこの二件を(現在まで)立件せず、実質的には捜査見送り状況となっているのである。すでに一審判決が下され、しかも検察・被告双方とも控訴を求めなかったこの案件で、警察がさらに捜査を続行するとは到底思えない。だから問題なのだ。埼玉県桶川市の猪野詩織さんストーカー事件は、その行為を繰り返されたあげく、駆け込み、相談した上尾警察署のまさに怠慢・非常識捜査が原因で殺害という悲劇的結果を招来した。
 同様にここで、明らかに通信記録が不正入手されたのを見過ごせば、二件の当事者(被害者)の身にどのような災禍が降りかかるか、想像すらできない。果たして捜査した警察に、その責任を取る意図はあるのだろうか。しかも前述したように、実際、通信記録が持ち出されていたのは「数百件分」(当事者を聴取した警察官の弁)だというのである。
 そしてついにこのほど、事情聴取を受けた女性ふたりが意を決して、東京地方検察庁に告発を行った。罪名は「電気通信事業法違反」、「窃盗」である。被告発人は元ドコモシステムズ社員・嘉村英二(元被告)と「氏名不詳の創価学会関係者 複数名」だ。告発内容に触れる前に、事件の概要を振り返ってみよう。

学会大弁護団が被告を擁護
 昨年九月十〜十一日にかけて、三名の創価学会会員が逮捕された。創価大学生課副課長・根津丈伸。同大剣道部監督・田島稔。そして今回被告発者となった嘉村英二。三人の“役回り”と事件が露顕した経緯は以下の通り。
 田島は自分が交際中の女性と彼女の知人男性の“仲”、つまり浮気を疑い始めていた。そこで昵懇の根津を介して、嘉村に女性ら二人の携帯電話通話記録の入手を依頼する。昨年四月二十五日、嘉村は派遣されていた江東区豊洲五丁目に所在するKR豊洲ビル六階内「NTTドコモ情報システム企画第2担当事務所」に設置された「料金明細システム」の端末機を不正に操作して、通信記録(出力印字)を入手した。
 愚かなことに田島は、この印字された通信記録データを示して交際相手を詰問したため、「なぜそんなデータを入手できるのか」と不審に思った交際相手がドコモへ相談し、警視庁へ告訴する事態となった。
 結局、芋づる式に三人は逮捕されるのだが、一般紙は彼らが学会員であることに触れようとしなかった。そこにこそ、実は今回の告発同様の重大な問題が横たわっているのである。彼ら三人はいわゆる社会的肩書とは別に、学会組織内での肩書や上下関係が存在する。三人のうちもっとも高位にあるのは根津だ。創価大十期生で、全国副青年部長。地域でも幹部であり、創価大出身者の同窓会「創友会」の評議員。以上が学会での“オモテ”の顔で、“ウラ”は学会批判者の調査・攻撃を専らとする「教宣部」というキナ臭い部署に在籍していたといわれる。
 田島は創大地元・八王子の地域男子部主任部長とグッと格落ちする。元々警視庁巡査部長で、剣道では国際大会優勝経験のある人物だが、九五年に創大へスカウトされた。さらに嘉村は、創価大学卒。指揮系列、命令系統がどうであったかは、容易に想像できよう。
 繰り返し述べてきたように、この一件だけが立件されている。が、捜査当局のシナリオは、「田島の色恋沙汰」を中心に据えたもの。学会組織への言及は、まるでなかった。被告側には、十一名もの学会系弁護団がついたのは、逆に学会の組織的関与の疑いすら抱かせる。弁護団には福島啓充(副会長)、松村光晃(同)、築地伸之らの“一線級”弁護士が顔を揃え、「事件は偶発的、単発的」と主張した。事件発覚当初、学会機関紙「聖教新聞」は、こう断罪していた。

〈社会に迷惑を、学会に迷惑を、かけゆく愚者は 我らの和合僧より 断じて追放せよ!〉

[左図] 事件発覚翌日の聖教新聞(02.9.14)に掲載

 掲載されたのは昨年九月十四日、池田氏が筆を執る一面コラム「わが友に贈る」コーナーだったのだが、現実には学会弁護団丸抱えで、彼ら三人をひたすら守り、情状酌量を引き出したのであり、追放などされた形跡は微塵も見当たらない。そして判決は冒頭のごとくであった。

警察が犯罪事実を告知
 一方、彼ら三人の逮捕からほぼ一週間ほどがすぎた昨年九月十九日、今回、告発者となった二人の女性のもとに警察官から電話が入る。深川署の美崎と名乗る刑事が電話を入れたのは、A・Yさん(仮名)宅である。Aさんはこう記憶している。
 「自分と娘の電話番号を聞いて、その携帯を所有しているか、また、料金プランの変更や故障、トラブルでドコモに連絡したことはないかという質問でした」
 一方、もうひとり、佐藤せい子さんへの電話は具体的だった。
 「創価大学やドコモ関連会社社員の引き起こした事件(根津らの事件)について知っているかと訊ねていました。深川署のカワトと相手は名乗り、さらに、『あなたの携帯電話の通信記録が調べられた形跡がある』とはっきり述べたのです」
 さて、ここで警察の事情聴取を受けた二人のプロフィールを詳細にしておくことが、以後、嘉村らの犯罪性を見るうえで重要だ。Aさんは、八〇年に学会入会。学会幹部と五年後に結婚したが、日蓮正宗と学会間で信仰、教義をめぐって深刻な対立が起こるとともに同会の在り方に疑問を感じて脱会した女性である。また夫とはそのことを理由に離婚の止むなきに至ったが、以来、現在まで学会からさまざまな嫌がらせ、迫害を受けてきた。
 佐藤さんは、学会を厳しく批判してきた日蓮正宗信徒団体幹部(副講頭)の立場にあり、Aさん以上の迫害にあっている。犯人不詳だが、自宅からフロッピーディスクを盗まれたり、団体内特定の人物としか電話で話したことのない案件が、学会が関与したと見られる文書に記載された経験を持つ。
 ふたりとも根津らの事件は、創価学会ならやりかねないとは推測していたものの、それと自分たちが直結していたとは、よもや考えても見なかった。
 翌二十日、佐藤さんは前日電話で自分がそうした学会批判者としての立場ゆえ、事件が起こされた可能性を指摘したことも踏まえて、なるべく早く捜査協力すべく深川署に出向いた。ところが応対した保安課の内野氏は、佐藤さんの場合は刑事事件が成立しないと告げる。二四時間前には、カワト刑事が、
 「学会関係を詳しく知りたい。不正アクセスした人のリストを見れば、反創価学会が誰か分かるか。捜査に協力してほしい」
 と、甚大なる興味を抱いていたにもかかわらず、である。前出の内野刑事は、こうのべた。
 「ドコモには、加入者の住所・氏名などを扱う顧客システムと通話月日、時刻を扱う料金明細システムがあり、前者(佐藤さんのケースが該当するのだと内野氏は解説)は、罪にならない」
 結局、調書すら取らなかった。Aさんは多忙のため、同じく深川署に出向いたのが二十二日午後である。対応したのは同署保安課・遠藤課長。彼はこう解説した。
 「あなたと娘さんの携帯電話の料金明細システムが三月七日にアクセスされ、通信記録が出されている。これにより、遡る一〜二カ月の記録が漏洩した。料金プランの変更、トラブルやクレームなどの理由で確認アクセスは違法ではないが、それらがないのにアクセスするのは違法である」
 その後、約四時間半、Aさんは遠藤課長、同行した娘さんに対しては電話をかけてきた美崎刑事が事情を聞いた。翌日、約束の時間に二時間以上遅れてA宅にやってきた遠藤、美崎の両名は、
 「前日と話が変わった。学会が係わっているような話をしたが、それは分からない。ほかにもアクセスされている人が全国に何百人もいて、反学会の人ばかりでないから、たまたまAさん親子が入っていたとも考えられる」旨、述べて、そそくさと供述調書を読み上げた後、署名・押印させて引き上げてしまったのである。佐藤さん同様、何らかの捜査方針の変更、あるいは圧力がかかった形跡が濃厚なのだ。
 以降、Aさんは資料などをスパイ映画もどきの方法で手渡したりしたが、捜査の進展は皆目分からぬうちに、彼ら三人の判決が下されてしまった。
 佐藤さんに対しても同様で、誰に対しての通話記録が漏れたのか警察が明らかにしてくれない以上、自らの力でやるしかないと弁護士会を通じてドコモに照会を試みるが、
「捜査に係わる事項」を理由に断られる。その日付は判決を過ぎてからだった。
 一言加えれば、料金明細システムと顧客管理はまったく別のもので、アクセスできる人間も峻別される。捜査当局がそれを混同するなどあり得ない。また、嘉村がデータを盗み出したとされる三月七日の翌日、本誌発行人はAさんとこの「フォーラム」手渡しのため、新宿駅東口で会ったが、その際、ふたりの男が両名の写真を無断で撮影している。ちなみに両名以外、そこで会うのを知っている者はいないのに、である。
 述べてきたように、これほど確実、あからさまな事実があるというのに警察の捜査は頓挫したままだ。いったい背後に何があるのか。ましてや個人情報保護、住基ネット問題など、プライバシーが声高に叫ばれている状況の中、なぜこの事件を立件しないのか。公明党はいずれも、政府案を推してきた立場である。その支持団体関係者が、かような犯罪に手を染めているのである。告発状にはこうある。
 〈本件は、いずれも創価学会の関係者である被告発人らが、告発人らの反創価学会活動を嫌悪し、告発人らの交友ないし活動関係およびそれらの者との通信に関する情報を把握するため、通信の秘密を守るべき立場にある被告発人嘉村を含めて共謀し、無法にも通信の秘密を侵害した事案である〉。
 つまり憲法二〇条、二一条二項を侵害する行為である。当初の事件より前に、Aさんの通話記録は取られているのである。このひとつをとっても、検察が捜査に着手すべきなのは言うまでもない。

山田直樹(やまだ・なおき)フリージャーナリスト。1957年生まれ。文庫本編集者を経て、「週刊文春」記者。イトマン事件など経済事件を担当し、今春独立。

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